「引箔」とは織物に箔を織り込む手法です。
一越一越、一本一本、織物に引いていくのでこの名がつきました。
当社が商標登録を持つ「真珠箔」の一つを例にご紹介いたします。
三俣(みつまた)で漉いた紙幣と同じ上質和紙が台紙になります。
その上に漆や金箔を貼って作ります。和紙の大きさ約幅46cm丈61cm。
三俣和紙の上一面に漆(Racquer)で下地を作ります。滲まないよう、また裏面に浸みないよう目地(めじ)の役割になります。
その上に薄く一面に真珠を粉にしたもので覆い、一旦乾かします。
箔は織物に織り込むものですから薄くないと織物の絹風に差し障るので出来る限り手薄く仕上げる必要があります。純度の高い材料を極めて薄く撒きます。
真珠箔の下地作り。下地ですが主役です。
乾き切ったら薄く糊料を噴霧して、その上に本金箔をあしらいます。
截金(きりがね)という蒔絵と同じ手法です。一枚の本金をちぎって置いていくのですが置き方のバランスに職人のセンスが活かされます。
あらかじめ少し大きめに千切った金箔を竹の筒に入れ、金網越しに筆で蒔いていきます。
作業手順は簡単ですが、仕上がりは職人技です。同じ大きさを等間隔に並べるのではなく心地よいアンバランスを要求されます。
最後に指でまだ浮いている金箔を押さえて台紙に定着させます。
最後に定着液を噴霧し、表面の粘着と箔剥がれ防止をします。
箔が完成したら織物に織り込むため糸状に裁断しなければなりません。
戦前までは定規を当て小刀で職人の手で一本一本切っていましたが織機が電動に変わっていった頃、裁断も電動に変わりました。
手で糸状に切ると不揃いな切幅は「味」にはなりますが、綿密な織物は不揃いを嫌います。均一な裁断が要求されます。
同時に戦前は箔というものは金箔・銀箔のように無地の箔でしたが、この技術の導入で引箔は模様箔へと進化していきました。
この和紙の大きさで1,880本の箔になります。袋帯六通でこれが5枚必要です。繊維の細かい上質和紙でないと細さに耐えられないのです。
裁断速度の速さは静電気との戦いです。
引箔の両端の黒線は製織時に箔の裏返りを感知し尚且つ線が真っ直ぐ織れることで箔の模様が正しく再現できるために引かれたものです。
また裁断後に箔の前後両端の四隅まで裁断しないのは、総て糸状になると織り込む順番が分からなくなるのと、裁断後も1枚の箔であった方が保存しやすいためです。製織時に1本づつ切り離して織っていきます。