とにかく暑い京都。
夏が終わり秋のお彼岸を告げるのが萩の花です。
萩は万葉人に最も愛された秋草で、
万葉集に詠まれた植物の中で最多です。
可憐でしなやかにたわむ枝が風に揺れこぼれ落ちる
優美な姿を万葉人は殊に愛したようです。
お彼岸の今日は梨木神社の「萩まつり」に出かけました。
知らない人が見れば、ここは御所の一角にあるので御所にしか見えません。
「萩の宮」とも云われる神社は約500株の萩のある萩の名所。
十時半から神事は始まりました。
神官が一列に並んで入ってきます。
順に御手洗(「おてあらい」じゃありません)をし、口をゆすいでいきます。
神饌と共に紅白の萩の花と鈴虫を竹籠に入れご神前に奉納。
境内の萩には献詠された短冊が下げられていました。
純白の装束が眩しいです。
創建が明治18年と、京都では新しい神社です。
元々この辺り、明治までは公家屋敷が建ち並び、西側の京都御所との間にある梨木通は、朝夕参内する公卿たちの参内道としてつかわれていました。
ここには京都三名水の一つ「染井の水」があります。
染井、醒々井、縣井の三つが京都三名水と言われていましたが、他の二つは現存せず、染井の水のみ今も枯れずに沸き続けている貴重な井戸。
昔、この場所は宮内の染所として用いられ、この井戸の水で染め物をするときれいに染まったことからこの名がついた。
季節問わず毎日水汲みに来る人で列をなすこともあります。
厳しい暑さの中いただく天然のお水は体にしみわたります。
京都が千年の都たり得た理由の一つが脈々たる地下水と云われます。
無計画な都市開発でビル建設時の地下工事が地下水を遮断してしまい、名水があちこちで枯れてしまいました。
ここは奇跡的に生き残りました。偶然でしょうけど( *´艸`)
「源氏物語」に萩を情感豊かに著した名場面があります。
源氏物語 巻四十 御法
風がもの寂しく吹き出した夕暮れ、紫の上が庭の植え込みをご覧になろうと脇息に寄りかかって座っていらっしゃるのをおりからおいでになった院(=光源氏)がご覧になって「今日はよく起きていらっしゃるようですね。明石中宮の御前ではこの上なくご気分も晴れ晴れなさるようですね。」と仰る。
紫の上は
おくと見る ほどぞはかなき ともすれば
風に乱るる 萩の上露
「こうして起きているのもあと僅かなことで、ややもすれば吹く風に乱れ散る萩の上露のような儚い命でございます。」「もうあちらへおいでください。気分が悪くなってまいりました。」と仰り御几帳を引き寄せて横になられる様子がとても頼りなくお見えになる。
夜が明けきる頃には息がお絶えになった。
紫の上の臨終の場面です。
明石中宮とは光源氏と明石の御方との間に生まれた一人娘。 出自の低い母から生まれたため、源氏は娘を手元に引き取り、正妻の紫の上の養女として、高い后教育を施す。 明石の姫君は紫の上とは実の母子でないことは承知だが、愛情深い養母に育てられて、美しく育つ。
ここ梨木神社には「中川の家候補地」という平成20年(2008)に京都市作成の立看板があります。
平安京東端の東京極大路に沿って流れていた京極川の二条以北を中川と呼んでいた。付近の廬山寺は紫式部邸跡といわれ(現・寺町通を挟んで真向い)、
『源氏物語』でも貴族の別邸が多く建ち並ぶあたりと設定されている。
源氏が「花散里」に逢いに出かける場面で「中川のほどおはし過ぐるに」とあることから、花散里邸はこの辺りと推定されている。花散里は姉の麗景殿女御と住んでいた。
また「箒木」では光源氏が方違えで紀伊守邸を訪れ、空蝉に出会う場面があるが、この屋敷があった場所も中川である。
「蜻蛉日記」の作者・藤原道綱母の住まいも中川の近く。
京都というところは「寺」は観光に力を入れ昔から「お布施」と称する非課税の「拝観料」で収入を得ていました。
ところが神社は如何に有名な所も無料開放です。
観光客の駐車場もほとんどの寺は有料。こちらは無料。
染井の水も無料。拝観料も一切要らない。
梨木神社も古い建物の貸室も振るわなかった気がします。
修復費を捻出するのも苦労されてきました。
そこで持ち上がったのがマンション建設。
社殿の修復等の資金集めに苦慮していた2013年、境内の参道を含む土地をマンション開発業者に60年の期限付きで貸し、その地代を社殿の修復費用に充てる計画をたてました。
ところが、その計画が神社本庁の承認を得られず、神社本庁から離脱をし単立神社となった経緯がありました。
この動きは世界文化遺産・下鴨神社でも起こった。
鎮守の森「糺の森」は『枕草子』や『源氏物語』にも登場する都市部にあるのに約12万4千平方メートルの敷地に古代山城原野の植生を残す世界でも希少な森で、平成6年(1994)、世界遺産に登録されました。
そこにマンション建設が持ち上がったのだから注目されるのは当然だが、建設予定地はその指定区域外、南側の隣接地。
神社と事前協議をしてきた京都市も、「景観に配慮された内容」(景観政策課)と理解を示し、2017年春にマンションが建てられました。
古い京都でさえ現代人は昔と比べると氏子意識が希薄で、「神頼み」の時代では無いのかもしれませんし、不況下で大手企業の献金も苦戦のようです。
神社の周囲をよく見ると、周辺民家はどうも昔は境内の一部に思えます。つまり切売りしてきた可能性もあります。
市中にある神社仏閣は、時代にあった生き残りを模索し、古来からの慣例を守る。
これは伝統産業全体に当てはまることだと身に抓されます。
マンションは境内を少しは狭くするし視界にも入ります。
でも荘厳な雰囲気は、そのままです。
観光客を呼ぶには、旧来の神社仏閣に足りなかったもの、並ばずに使える清潔感溢れるトイレと憩いの場でしょう。
こんな素敵な場所を見つけました。
参道の石畳を左に見ると、オシャレなカフェ。
季節限定が特にオススメです。
「アフォガード」
バニラアイスにエスプレッソコーヒーをかけます。
ひやしあめを炭酸で割りエスプレッソコーヒーを加え、飲む時に混ぜ合わせるもの。
名前、忘れちゃって💦
正面右隣の元茶室の座敷も空いてれば座れます。
こういう場所、欲しかったですよね。
Coffee Base NASHINOKI です。
ちなみに、この店で使われている水は当然、「染井の水」。
授与所で御神水用の容器(500ml)をお頒ちされています。
御神水のお土産というのも他にはそうそう無いと思います。