源氏物語 巻十五 蓬生
蓬の庭を踏み分けて光源氏は乳母の子・惟光の案内であばら家に向かう。
画面上から下へ真珠粉が濃いから淡いになっています。月の光を表しています。
また橘の花の咲く季節になった。
源氏は花散里を訪ねる途中に森のように茂る家があった。
見覚えある木立を惟光に様子を見させると、落ちぶれ果てた末摘花の邸だった。
ひたすら待ち続ける末摘花の誠実さに源氏の心は感動したのであった。
源氏が都を追われ須磨に隠遁してからというもの、源氏の庇護で生計を立てていた女性はやはり困窮してしまうのです。
蓬の季節ですね。
蓬といえばよもぎ餅です。
因みに末摘花とは紅花の古名で、茎の先端に花が咲くので朝露の乾かないうちに摘んで染色に用いることからこう呼ばれます。(染色に花弁そのものを用いるのは紅花と露草のみ)
なつかしき 色ともなしに 何にこの
すゑつむ花を 袖にふれけむ 《光源氏》
「末摘花」とは、源氏がこの女性につけたあだ名で、彼女の「鼻が紅い」ことを紅花の「花が紅い」にかけたものです。巻六「末摘花」から巻三十四「若菜上」まで登場します。
明治百年女優祭と銘打って東宝が帝国劇場で「肝っ玉かあさん」の京塚昌子主演で登場人物全員女優というお芝居を制作し、TVで見た記憶があります。
源氏物語の数あるヒロインの中でも、その醜貌で異彩を放つ末摘花の源氏に対する心根の優しさがじわじわと観る者の胸に染みわたるお芝居でした。
北条秀司作「末摘花」は本来は昭和36年(1961)十七代目中村勘三郎のために書かれた歌舞伎で、歌右衛門の光源氏という取合わせ。つまりは歌舞伎だから役者は全員男性。
40年後平成13年(2001)十八代勘三郎・玉三郎のベストコンビで再演。
歌舞伎の「末摘花」は、最終的には自分の生き方を自分で決める賢い姫。憎めないのが玉三郎の光の君。演じ方によっては単なる浮気者。そうならないところが流石。勘三郎の末摘花はきちんと最後は泣かせて決める。同情ならいらないと。