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藤波の薄紫いろに

当主のひとりごと (BLOG) 2024.05.02

源氏物語 巻八 花宴

華やかな紫宸殿南殿の桜の宴は、中央に桐壺帝、玉座の左右に藤壺中宮と皇太子がすわった。その夜、帝は愛する藤壺中宮を召すことができなかった。

光源氏はそれを知りつつ藤壺の辺りを酒にまぎれていく。

が、しっかり施錠されていた。ところが弘徽殿には施錠がされず女御のいない侍女たちはぐっすり眠っていた。

そのとき、

 

照りもせず くもりもはてぬ 春の夜の

おぼろ月夜に 似るものぞなき 《朧月夜》

 

と口ずさんでくる若い声に光源氏は興味をもち女の袖をとらえた。

女を軽々と抱き上げ細殿に入り戸をしめてしまった。

女は「わななく、わななく」小さな声で、

「変な人が」という。

源氏は、人を呼んでも

「なんでふことかあらん。ただ忍びてこそ」という。

その声で女は光源氏であることを知り、心を落ちつけた。

その夜は、ふたりにとって、あっけなく明けていった

 

皇太子の妻の一人となる身を、ふとした春の夜の悪戯が穢してしまった。

季節は藤の花へと移っていった。

右大臣家の藤の花の宴に招かれた源氏。

花房は庭へ風のあるごとに紫色の波を寄せては返す。

藤の花の栄華が藤原氏の明日を象徴するように咲き満ちた。

あの日、扇だけ取りかえ別れた姫。

咲き乱れる藤波の薄紫いろにけぶる花陰に源氏と右大臣家の六の姫・朧月夜の心だけが淡くけぶるのでした。

 

 

朧月夜の発生は大陸からの黄砂の影響によるものです。

その天体観測にも向かない悪条件を日本は叙情的に捉える文化がある。

 

「藤文」も呉服では人気の文様です。

日本原産の藤は、高貴な紫色の花を咲かすことから「万葉集」にも数多く詠まれており、「枕草子」には「めでたきもの」「貴なるもの」と称えられています。

藤は繁殖力が強く、他の樹木に絡みながら伸びていくので長寿、子孫繁栄の象徴とされ、その音から「不二」「不死」に繋がることから「藤原氏」の姓とされ多くの装束に使用され有職文様になりました。

上向きに咲く花の多い中、藤は下向きに花穂が垂れることから、天と大地を繋ぐもので神仏が地上に降臨するときの雲を意味するとも云われています。

物静かで気品ある女性のような藤の花言葉は「あなたを歓迎します」です。

※ 弘徽殿(こきでん)西庇は細殿と呼ばれる女房らの居室空間になっている。

細殿は簀子がなく直に遣り戸から入れる構造で、清涼殿に出勤する男性官人の通路に面した弘徽殿や登華殿の細殿は男女の接点となる開放的な空間だった。

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