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朝粥 〜 瓢亭

当主のひとりごと (BLOG) 2025.07.20

 

相変わらず昔ながらの掛茶屋風の表構えで、店先の古びた柱には編笠がかかり、(すす)いろになった天井からは二、三足のわらじがぶら下がっている瓢亭。

一休宗純和尚一日南禅寺に詣づるの途上、破れ草鞋(わらじ)()へんとして茅屋(かやや)に憩はせらる。亭主因みに問うて曰く、行人に之れを施さば其徳奈何(いかん)、和尚笑うて曰く、功徳なし、たゞ(のき)下に()けて人のみるに任さば足ると、これより瓢亭の店頭草鞋(わらじ)をかくるを以てならはしとなる

 

南禅寺参道の腰掛茶屋として暖簾を揚げたのは今から450年前といわれる。

その腰掛茶屋が料理屋としての創業したのは天保8年(1837)。

いたって質素な表構え。木の薄板を幾重にも重ねた柿葺(こけらぶき)の低い屋根の軒先に『瓢亭』と染め抜かれた小さな旗が吊り下げられ、それが看板代わり。

元治元年(1864)刊行の『花洛名勝図絵(からくめいしょうずえ)』の挿絵には既に茅葺の茶店「松林茶屋」が描かれている。後の瓢亭に当たる。

「瓢亭の煮抜(にぬき)玉子は近世の奇製なりとて酒客あまねくこれを食悦(しょくえつ)す」とあり、当時たいへんな人気だったことがうかがえます。

軒先の草鞋の奥の板看板。「ばせう」つまり松尾芭蕉。

「月によし 茶に(よし) ゆき花ころに 東山」

 

 

一棟ずつ独立した五つの茶室が建てられています。

茶道の精神が息づく、揺るぎない佇まい。

主な建物として,店の入口となる敷地の南東に「主屋」。

通りに入母屋屋根を見せる元柿葺の建物で、玄関、帳場、厨房などが配される。各時代に改修を受けているが、瓢箪型の木製看板裏書に記されるように、江戸後期に遡る部分が残る可能性も考えられる。

池と流れを挟んだ北側の「くずや」に通される。

創業当時からそのままの茅葺屋根で、四畳半に3畳間が付く平面。

庭園の中心となる池と流れは,琵琶湖疏水の水を引き小道を挟んで東隣の山縣有朋の別邸である「無鄰菴むりんあん」から流れ込むもので、流れに面した各建物を、木橋や石橋を渡って巡る構成が空間としての魅力となっている。

全室それぞれに独特な趣で迎えてくれます。

 

和敬清寂を心とし、茶懐石を基礎としながらも伝統と革新を繰り返し、今日に至ります。季節ごとに趣を変える茶室にて、名物「瓢亭玉子」をはじめ、夏の「朝がゆ」、冬の「鶉がゆ」など、不易流行の京料理を楽しませてくれます。

茶室は窓から入る明かりを大切にし、明る過ぎないほの暗さが求められ、そのような照度になっています。天井は低く6尺(180cm未満)ほどで、高身長の人は頭をぶつけることもあるかも。十分お気を付けください。

瓢亭(ひょうてい)の 朝粥(あさがゆ)すすり 松に吹く

風の音聞けば 心すがしかも   

 

吉井勇の短歌にも登場する瓢亭の朝粥は、近代の文人、与謝野晶子、谷崎潤一郎などがこよなく愛し食した七月八月限定の名物料理。

明治初期、祇園で夜遊びをした旦那衆が早朝に芸妓を連れ立ち店へ訪れ、店の者を起こし朝食を作ってくれと言われ粥を出したのが始まりと言う。

まず温かい梅昆布茶。

名物瓢亭玉子に瓢箪形の三つ重ね鉢。

上段のずいき、とても美味しい。

二段目のブリも身がほぐしてあり胃にやさしい。

一番下の賀茂茄子の田楽と湯葉も流石。

噂の瓢亭煮抜き卵。初体験で感動。

笹に巻かれた鯛のにぎり寿司も気が利いている。

吸物は、豆腐に磯の香りの海苔。

鮎の塩焼き。小振りだが身が肥えていて新鮮そのもの。蓼酢(たでず)でいただきます。

炭火の焼き方は絶妙で、硬い骨も楽に抜き取れます。

 

「おかいさん、炊き上がってきました」

メインの白粥に醤油味の鰹出汁葛あんをとろりとかけて味わう朝粥。

茶碗に2杯でした。けっこう満腹です。

母が作ってくれた「おかいさん」と同じ味付けで懐かしかったです。

 

 

「もてなし」という言葉の語源は「持って成す」だとか。

料理屋の持って成すものは美味しい料理なのだけれど、料理を盛る器や部屋のしつらいを前もって整えるのも大事なこと。これから迎える人に心を寄せながら準備をするところから既におもてなしは始まっているのです。

挨拶の仕方や所作振る舞いは、最低限度は教えるそうです。

座敷に入る時は(にじ)って入るとか、座敷では立ったまま話をしてはいけないとか、お正客(しょうきゃく)(最上位に座る客)から膳を運べとか。

「もてなされ上手」とは、客側としてのもてなしの心かもしれませんね。

 

 

 

 

2010年のミシュランガイドで3つ星に選ばれ、また瓢亭14代当主で無形文化財保持者(人間国宝)の高橋英一さんは、2015年12月に料理では初となる世界無形遺産に和食が認定される過程で多大な尽力をされた方。

毎朝、床の間にしつらえられた丹精した茶花をしつらえておられます。

静けさの中に色を添える一輪が、心の張りをゆっくり解く。

川端康成がノーベル賞受賞講演で

一輪の花は百の華やかを想わせる

人についても言えることです。

瓢亭は見せびらかすおもてなしはしない。

自然に生い茂ったかのように見える庭木も、整った佇まいだし、料理の確かな味わいの料理も忘れかけていた懐かしい気持ちを迎えてくれる、そんな安らぎを持たせてくれる。

 

瓢亭に「お得」かどうかを求める人には不向きだと思う。

特段人の手を加えたように見せない もの()びた座敷や庭などに心から親しみを感じられるようになるのは、やっぱり年齢だとか生活だとかいうものが、漸く老残枯渇の境涯に入ってきたためではないかと思う。

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