世紀の二枚目・アランドロンは昨年88歳で亡くなりました。
かなりの日本贔屓というのも有名です。
私の若い頃はTVの洋画劇場全盛期で15年前の洋画が、10年前のが、そして古い洋画が底をつき絶頂期のアランドロンなんかの映画も放映される時代でした。
「悪魔のようなあなた」
Diaboliquement vôtre
南フランスあたりだろうか、道路を突っ走る車がドカーンと言う音と共に横転し天地はまッ逆さま・・・
気が付いたときにはピエール(ドロン)は病院のベッドの上だった。
「奥様はご無事ですよ」と言う医者の言葉に
『ぼくに奥さんが??・・・・』
左手の薬指には結婚指輪が確かにある。
奥様に連れられて帰ったところは広大な敷地と立派なお邸。
東洋趣味のお邸には中国人の召使キエムとフレデリック(以下フレディという)という医者がいた。
ピエールはどうやら記憶喪失で自分が何者なのか、名前もなにも覚えていない。
奥様の話によると自分はジョリュジュ・カンポと言う名で、どうもたいした富豪であるらしい。
1ケ月前まで香港に在住していたらしく、東洋人の愛人もいたらしい。
横暴でわがままな男だったと妻クリスティーヌ(センタ・バーガー)と使用人のキエムは言った。
だがジョリュジュと言われても、そんな生活の記憶は皆無。
妻と一緒にベッドに入った記憶もないとフレディに告げるジョリュジュ(ドロン)。
こんなキレイな妻がいるとなれば、誰だってその気になって、その人物になってしまいたいだろうというフレディの言葉にも、いつ記憶が戻るかもしれないという妻クリスティーヌ(以下クリス)はどうも様子がおかしい。
ジョリュジュは、最初はジョリュジュとしての記憶を取り戻したかったが、何度か危うく殺されそうになり、その上眠っている時にふと見る夢にアルジェリアの夜が垣間見えることで、果たして本当に自分はジョリュジュなのか?という疑問を解き明かそうと邸を探索し始める。
ジョリュジュが飼っていた犬も彼に吼えて噛み付きそうになったことも疑問のひとつだった。
ある日、庭を探索していて犬が掘った土の中に、人間の手を見つけ、やはりここの主人、ジョリュジュは殺されていると確信をもった。
だが妻に話し、現場に行くと死体は無かった。
「疲れているのよ」と言う妻の言葉と、夜、眠りの中で聞こえてくるあの催眠術のような声・・・
「ジョリュジュ君、もう死んで楽になるのだ.・・・自殺するのだ・・・!」という声に何がどうなっているのだ?と疑問を整理し始めたジョリュジュであった。
毎夜眠る時に飲まされる薬も飲まずにベッドに横たわると、今夜もまた、あの声は聞こえてきた。
が、今夜は意識もはっきりとしている彼はその声を探した。
それは、どうやら枕の下から聞こえてくる・・
案の定、枕の下でテープレコーダーが回っていた・・
やがて、妻を言いくるめ、甘い言葉でついにベッドへ運んだジョリュジュは、明くる朝、ついに真相を聞き出した。
フレディと夫ジョリュジュが嫉妬で争いとなり、夫を殺してしまったこと。死体を埋めたこと。キエムは自分の愛人であること。
ピエールに何故白羽の矢が当ったか?
アルジェリア帰りで身寄りが無かったこと。あの事故で本当は死んでもらうはずだったこと。
それから、ピエールはフレディが戻ってくるとクリスが本当の妻になった・・・と伝えた。
するとフレディは逆上し、クリスをぶった。
冷ややかに観察するピエール。
クリスを殴打し続けるフレディの胸にナイフが突き刺さる。キエムが刺したのだった。
ピエールは受話器を取り、警察に電話をしようと・・・・
ところが、クリスの拳銃がピエールに向けられた。
そして全ては自分の仕組んだことだと告白した。
しかし、ピエールを少し愛しはじめていたクリスは、じっとみつめるピエールの目にすくんでしまった・・・
諦めたクリスは銃を降ろした。
再度ピエールが電話機を取ると銃声がした・・・・
クリスがキエムを撃ち殺し、その銃を死んだフレディの手に握らせた。
ピエールは警察が来るまでに筋書きを考えようと・・・・
警察の取調べにクリスは平然と「使用人のキエムと客のフレディが争って殺し合いになった」と。
クリスの肩に置かれたピエールの手の重さは『真実は語らないよ!』という無言の合図だった。。。
これでピエールは莫大な財産を持つクリスと一緒になれる。
だが、警察官のひとりが「こんなものが見つかった」と、あのテープレコーダーを持ってきた。
回るそのテープには『ジョリュジュくん、自殺するんだ!』という声が流れてくるのだった・・
女の完全犯罪??
疑惑が向けられたピエールの無実を証明してくれるのだろうか。
ラストのどんでん返しまでは、ドロンの心理描写に重きが置かれ、センタ・バーガーの魅力を余すところ無く見せ、美しいドロンとバーガーの艶やかそうに見える場面の中に駆け引きとサスペンスを織り交ぜての娯楽作品となっています。
ルイ・C・トーマの原作を監督のジュリアン・デュヴィヴィエとローラン・ジラール、ジャン・ボルヴァリの脚本でアンリ・ドカエ撮影、フランソワ・ド・ルーベ音楽によるフランス映画。
封切:🇫🇷1967年12月22日🇯🇵1968年5月4日
『日曜洋画劇場』(1973年2月18日放映)
配役 ※括弧内は日本語吹替
ジョルジュ・カンポ:アラン・ドロン(堀勝之祐)
クリスチャン:センタ・バーガー(鈴木弘子)
フレデリック:セルジュ・ファントーニ(田口計)
室内装飾家:クロード・プエプリュ(島宇志夫)
キエム:ペーター・モスバッシャー(千葉耕市)
医者:アルベール・オージエ(塩見竜介)
『日曜洋画劇場』で放映されたときに、30歳ほどの美貌のドロンに惹きつけられた人も多かった。
その中に視聴者からテレビ局に一本の電話が入った。
「劇中でドロンが着ていた紋付、あの着物は数年前に盗まれたもの」と視聴者からテレビ局へ連絡が入った。
警察も乗り出したが、映画制作側は「骨董市で購入」したものであり、善意の第三者、ということで返還には至らなかった。
日本でのロードショー公開日には発覚しなかった。「テレビの社会的影響力・伝搬力」が確認された出来事であった。
映画の中でドロンは日本の紋付を着用した。
電話の主は、能囃子方 大鼓の人間国宝・安福春雄さん夫人だった。
安福さんは、昭和30年(1955)1月に羽織、袴などを入れた鞄を東京神田の出先で置き引きされた。
すぐに警察に届け出たが荷物は帰ってこなかった。
その後、約18年経たこの日、アランドロンのファンである奥さんが映画を見ていた。
その時、シーンに目が釘付けになった。
アランドロンが日本の紋付を着ているシーンだ。
それは18年前に盗まれた紋付だからだ。
どうしてわかるのかというと、
その紋付についている家紋が証拠となる。
その紋付は丸に州浜の白抜きにした安福家の家紋だったからである。
州浜の家紋は非常に珍しい。
安福氏の能楽の世界でももちろん、他の場所でも他の人が付けているのを、これまで見たことが無いとか。
その特殊な定紋を映画の中でアランドロンが纏っている。
これは18年前に盗まれたものではないか?
定紋入りの着物は「紋付」と呼び、正装です。
まして滅多にない家紋なら尚更 目につきます。
結局 戻ってこなかったけど、世紀の二枚目アランドロンに着用してもらえたのだから、紋付も本望だったかもしれませんね。
「家紋」とは家系や個人が使用する紋章の総称で、その中で公式の儀式や行事で用いられる、その家の代表的な正式な紋を「定紋」といいます。定紋は「本紋」「正紋」とも呼ばれます。正式な場面では必ずこれを使用します。
「家紋」の中には非公式の場で使われる「替紋」があり、婚姻などで新たに加わった紋や、主君から授かった紋などがこれにあたります。「裏紋」「別紋」「控え紋」などとも呼ばれます。また「女紋」と呼ばれる女性が嫁いだ後も実家の紋をそのまま用いる場合や、「通紋」と呼ばれる江戸時代以降、庶民の間でも広く使われるようになった家紋もあります。