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北は山 南は湖 西は小道 東は川

当主のひとりごと (BLOG) 2025.10.12

スウェーデン・アカデミーは9日、2025年のノーベル文学賞をハンガリーのクラスナホルカイ・ラースローKrasznahorkai Lászlóさん(71)に授与すると発表した。授賞理由として、「終末的な恐怖のただ中にあって、芸術の力を再確認させる、説得力と先見性のある作品群」が評価された。

ハンガリー人の姓名の表記法は、日本人と同じく、姓に名が続くので、クラスナホルカイが姓である。

日本との関わりは深く、97年の初来日で伝統文化に魅せられ、2000年と05年に国際交流基金のフェローとしてそれぞれ半年間、京都に滞在した。観世流の井上和幸氏のもとに通いながら寺社建築や日本庭園など日本の伝統文化を研究した。

この体験をきっかけに書き上げた、京都を舞台にした小説が

北は山、南は湖、西は小道、東は川

Északról hegy、Délről tó、Nyugatrol utak、Keletről folyó

日本の巡礼路をテーマにした2003年に出版。

ところが邦訳本は2006年に京都の松籟社(しょうらいしゃ)が初版の1500部ほどのみで、大阪や東京では貸し出し予約が100件を超える図書館も出ている。翻訳権の期限も切れており重版の見込み無し。

 

 

小説の舞台は京都市内およびその周辺が舞台。

ハンガリーの作家なのに登場人物は京都人。

主人公は京阪電車で移動し、寺院や庭園を訪ね歩いています。

北は、比叡山・北山連峰、南は1941年に干拓された巨椋池(おぐらいけ)

西は山陰道・西国街道など、 東は鴨川・宇治川。
寺院の造営にあたり、こうした地理的条件が理想的な配置として語られ、日本の空間感覚や宗教的象徴性を文学的に再構成した京都を巡る虚実混在の随想文学。

 

 

冒頭から先ず驚かされます。2章から始まるのです。落丁ではなく1頁目です。

京都の町を走る京阪電車の扉が静かに閉まる。無人の駅にひとり降りたつ美しい若者―彼こそ、かの光源氏の孫君。

京阪電鉄の駅の現代の情景描写がまたいい味。現代作家らしい知性を感じる。

何かが彼にささやいている、彼の求めるものが、何世紀もの長きにわたって探し求めてきた百番目の「隠された庭園」が、この地にある、と。

源氏の孫君が、隠密裏に抜け出し京阪電車で探索の旅へ。京都は南東の小路や寺を歩きさ迷う…のだが、実際の主人公はその寺と幻の庭ともいえる不思議な小説である。人が絶えたようにひっそり閑とした寺や路地、脱力感に襲われ1杯の水を求める弱々しい源氏の孫君の執念。寺を守護する本尊は、なぜ哀しげな眼差しでお顔をそむけた小さな仏像なのか…。京阪電車を使って君を捜索している供のものたちが、どんどんへべれけになっていくのが可笑しい。

 

主人公は「源氏の孫君」かと思いきや、読み終えてみれば、京都の営み、いや、地球の営みだと思います。

ある時代の美意識が100年単位で盲目的に保存され続ける日本の伝統美。

それを支えているのは人であって人でなく、自然界の機械的な秩序に似ている。

比叡山の不滅の法灯、苔庭の苔、枯山水の砂紋が注意深く守られ続ける京都で、京阪電車は今日も時刻表通りに運行する。

 

そして私はまさしく、ここに住んでいる。

 

 

 

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